住宅における良好な温熱環境実現研究委員会

研究成果・提言

研究成果

④ 既存住宅改修における水回りの設計に資する温熱環境暫定水準案

 入浴中の事故やトイレ等における健康障害は高齢者を中心に冬季に多発する。これらは冬季の低温が誘因になっていることが推測されている。そこで本委員会では、これら水回りで発生する冬季の健康障害の予防のため、特に既存住宅改修時の目標として用いることを念頭に、水回りの温熱環境水準について以下の通り暫定水準案としてとりまとめた 。

〇本暫定水準案の使用目的・位置づけ
  • わが国の住宅ストックには、温熱環境が劣悪なものが多く、とりわけ浴室・脱衣室・トイレの水回り空間について、ほとんど対策がなされていないものが大半であり、その改善が急務となっている。
  • 本委員会では、このような状況を踏まえ、水回りを中心とした住宅改修を進めていく上で、当面の設計目標として事業者が用いることを念頭に、実現性の面で現実的な水準となるよう留意しつつ、水回りの温熱環境水準案を設定することとした。
  • その際、海外の事例やスマートウェルネス住宅等推進調査で得られつつある知見を元にしてはいるものの、これらの知見だけでは十分とは言えない部分もあることから、本水準案については、十分な科学的な裏付けがなされるまでの暫定的な案として設定することとした。
  • なお、本暫定水準案は、低温に暴露されることによる健康障害の予防を目的として検討された案であり、安全の保証や健康増進を目的としたものではないことを付言する。
表3 住宅改修における水回りの設計に資する温熱環境暫定水準案(※1)
浴室 入浴時に最低でも「18℃ (作用温度(※2))」以上を確保する1) 6) 7)。そのために、
  • 湯を張らない状態においても18℃(作用温度)以上を確保できるよう、断熱性能・浴室暖房装置を設計することが望ましい。(ただし、衣服を脱いでも寒いと感じないこと、41℃以下のお湯に浸かっていて寒いと感じないことが望ましい5)
  • 不用意に窓を開け低温な外気に暴露される危険を避けるため、換気装置等を設置することが望ましい。
素足で床面が冷たくないようにする。そのために、
  • 熱伝導率、比熱が小さい素材とすることが望ましい10)
  • 床に湯をかけることである程度の対応が可能と考えられるが、床近傍を暖められる暖房が望ましい。
湯温を41℃以下、湯に浸かる時間は10分までを目安とすること2) 3) 4)を守れるように、
  • 湯張り温度の設定・表示が可能な給湯設備とすることが望ましい。
脱衣室 脱衣時に最低でも「18℃ (作用温度)」以上を確保する1) 6) 7)。そのために、
  • 衣服を脱いでも寒さで不快と感じないように11)、湯を張らない状態においても18℃(作用温度)以上を確保できるように断熱性能・脱衣室暖房装置を設計することが望ましい。(ただし、衣服を脱いでも寒いと感じないことが望ましい)
  • 不用意に窓を開け低温な外気に暴露される危険を避けるため、換気装置等を設置することが望ましい。
素足で床面が冷たくない8)-10)ようにする。そのために、
  • 熱伝導率、比熱が小さい素材にする11)ことが望ましい。
  • 床近傍を暖められる暖房とすることが望ましい。
手洗いや洗顔時に冷たい水の使用を避けるようにする14)-18)。そのために、
  • 給湯温度の設定・表示が可能な給湯設備とすることが望ましい。
トイレ 最低でも「18℃(作用温度)」以上を確保する1) 6) 7)。そのために、
  • 不用意に窓を開け低温な外気に暴露される危険を避けるため、換気装置等を設置することが望ましい。
  • 翌朝までの室温低下を防ぐ。
  • 室間温度差を防ぐ(主居室との連続化や、廊下も暖かくすることが求められる)。
※1:
本暫定案は事業者が既存住宅の改修を行う際の設計目標とするため、十分な科学的裏付けがなされるまでの暫定的な案として設定したものであり、「本暫定水準案の使用目的・位置づけ」を十分に理解して使用すること。また、ここで示す暫定水準案は、長時間滞在する居間や寝室の温熱環境が良好に担保されていることを前提とする。
※2:
作用温度:人体に対する温熱環境の効果を評価する指標で、簡易的には、室温と床・壁・天井等の表面温度の平均で表すことができる。(図1)
詳細は、「住宅における良好な温熱環境に関する調査研究報告書」第4章4.1冬季における水回りの温熱環境の検討(P.4-1)を参照。
図1 作用温度のイメージ
(参考文献)
1)
Public Health England :Cold Weather Plan for England Making the Case 2015.10
2)
「冬場に多発する高齢者の入浴中の事故にご注意ください!」消費者庁ニュースリリース2016.1.20
3)
研究代表者 堀進悟: 厚生労働科学研究費補助金,入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究 平成24~25 年度 総括研究報告書
4)
Masaru Suzuki 他:Circulation Journal 、Sudden Death Phenomenon While Bathing in Japan 2017.8
5)
河原ゆう子他: Japanese Society of Human-Environment System,冬期入浴中の水位と湯温が生理・心理反応に及ぼす影響 2002
6)
住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する調査の中間報告(第2回) ?スマートウェルネス住宅等推進事業の調査の実施状況について? 国土交通省プレスリリース 2018.1.25
http://www.mlit.go.jp/report/press/house07_hh_000185.html(2018.01.25 アクセス)
7)
住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第2 回中間報告会 ~住環境と健康に関するベースライン調査と改修後調査の分析速報~ 2018.1.29、一般社団法人日本サステナブル建築協会、http://www.jsbc.or.jp/seminar/files/2nd_interim_report_end.pdf(2018.01.25 アクセス)
8)
岡田直樹他:37th Symposium on Human-Environment System, 床からの冷刺激が接触部の皮膚温・熱流束及び温熱的快適性に与える影響について 2013.11
9)
岡田直樹他:38th Symposium on Human-Environment System, 床と足裏の接触による令刺激の継続時間が生理‐心理反応の相関に与える影響について 2014.11
10)
室恵子他: /日本建築学会学術講演梗概集 2014(環境工学II),脚部気温および床面温が体感に及ぼす影響 2014.9
11)
ISO/TS 13732-2: Ergonomics of the thermal environment ?Methods for the assessment of human responses to contact with surfaces ?Part 2:Human contact with surfaces at moderate temperature 2001-03-15
12)
慶應義塾大学理工学部他: プレスリリース 「住まいと健康に関する共同研究 室温が家庭血圧に与える影響についての実証調査を実施」2015.4.21
13)
第1 回委員会配布資料:水回り空間における一般生活者の暖房使用実態ウェブアンケート調査結果(概要)
14)
Ilkka Korhonen: Int J Circumpolar Health, Blood pressure and heart rate responses in men exposed to arm and leg cold pressor tests and whole-body cold exposure. 2006.4
15)
Anastasiya Borner 他: Physiological Reports、Baseline aortic pulse wave velocity is associated with central and peripheral pressor responses during the cold pressor test in healthy subjects 2017.7
16)
D L Wood 他: Hypertension、Cold pressor test as a predictor of hypertension. 1984.5
17)
横井郁子他: 日本生理人類学会誌、局所寒冷暴露時の血圧と心拍変動に関する研究 1998.8
18)
金澤武道他: 日本未病システム学会雑誌、血圧変動からみた血圧と未病 2004

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