これから先の人生、心も体もいきいきと健康で豊かでいられたらうれしいですね。長年にわたって高齢者の健康長寿について研究をなさっている高橋龍太郎先生に、知って得する50代からの健康維持方法について、3つの老化をキーワードにアドバイスをいただきました。
老化には3つの種類があります。それぞれの老化を理解し、うまく付き合っていきましょう。

外に現れる老化(知覚や筋力など身体機能の衰え)
[視力、聴力など知覚の衰え・・・急激な環境変化に気をつける]
ものが見えづらくなったとき、自分の老いに気付いたという声が良く聞かれ、50歳代になると自覚される方も増えてきます。老眼は年齢を重ねれば誰にでもいずれ確実に訪れるもの。聴力も特に高音域ではしだいに聞こえなくなるものです。加齢からくる視力や聴力の衰えは、年齢を重ねれば誰にでも起こる自然なことなので「病気」ととらえなくていいと思います。ただ、日常的に不便は感じられなくても、ちょっと違った状況に置かれると、途端に不便になってしまいます。急激な環境変化には気をつけるようこころがけましょう。
[身体機能の衰え・・・冬場の室内温度に気をつける]
50歳を超えると下半身から衰えることも多いので意識しましょう。足は「第二の心臓」といわれることもあるように、2本の足を動かすという基本的な動作が、心臓の働きを調整する面をもっています。これまでの研究で温度が低い住宅で暮らす高齢者の筋力は、暖かい住宅で暮らす高齢者より低下していることがわかっているので、室温は下がりすぎないことが重要です。また、着込むと活動しにくくなるので冬でもある程度薄着が望ましく、段差や電気コードなど、転倒する危険も遠ざけておきたいものです。なお、高齢になると寒さや暑さなどの感覚が鈍るので、温度計で確認すると良いでしょう。

内なる老化(自覚できない内臓系の衰え)
[住まいを年齢に応じた環境にする]
視力など、外に現れる老化とは対照的に、自分では気づかないうちに進行するのが、内なる老化、つまり血管や自律神経、内臓などの老化現象です。内なる老化に対しては、食事や運動などの生活習慣の見直しも重要ですが、近年の研究で、住まいを年齢に応じた環境に整えてあげることが有効であることがわかりました。特に冬場の温度管理は重要で、住宅内を暖かく保つことは血圧の低下に有効であるなど健康維持につながります。詳しくは暖かいリビングで血圧を下げるへ
[日常生活にメリハリをつける]
内なる老化の対策には、日常生活にメリハリをつけることも大切です。例えば食事では、食べる相手や食事の状況などが食べる分量、感じるおいしさや充実感に影響を与えます。食べて、消化して、排泄するという内臓の基本機能をうまく働かせるためには、単純な生活はなるべく避けたいものです。

精神機能の老化(認知機能、脳の働きの衰え)
[これまでの興味や関心をベースに広げる]
50歳を過ぎるころから、物事を理解して対処する能力はどうしても劣ってきます。また、今まで聞いたことも無いような新しいことには保守的になりがちなものです。脳を鍛えようと思って、何か新しいことにチャレンジしようとしても、精神機能(考える力)が追いつかずにストレスになることもあるでしょう。精神面の衰えは、ご自分の興味や意欲を大事にして無理なく合わせていくのが一番です。自分はどんな生活をするのが生きやすいのか?・・・そう考えた方が、人生が楽しく感じられるはず。これまでの興味や関心があることをベースに広げていくと良いでしょう
[調理は続けると良い]
調理は準備や手順が複雑で適度に頭を使い、認知機能に良い影響を与えます。これまで調理をしてきた方はやめずに続けるのも良いでしょう。すべてを任せず、調理や家事の一部に関わりを続けていくことはとても大切な日課なのです。
高橋龍太郎(たかはし・りゅうたろう)
医療法人社団 充会 上川病院 院長、元東京都健康長寿医療センター研究所 副所長
宮城県仙台市生まれ。京都大学医学部医学科卒。東京都老人医療センター(現・地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター)内科医長、岩手県沢内村村立病院内科医長、宮城県鴬沢町立医院院長、東京都老人総合研究所看護学研究室長、研究部長、東京都健康長寿医療センター研究所 副所長を経て、現職。老年学、老年医学が専門。高齢者の健康生活、自立支援に関する臨床と研究に30年あまり従事している。著書に『図解・症状からみる老いと病気とからだ』、『高齢者の生活機能評価ガイド』、『考える福祉』、『新老年学』などがある。