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クリスマスが終わり、そろそろ早咲きの水仙が街のナーサリーに出始める。
「春の植栽計画」とか、「芸能人の早春カラフル花壇拝見」などという雑誌が本屋に積まれるようになっても、実際のロンドンの空模様は相変わらず「ガーデニング日和(びより)」からは程遠い。
この手の企画も、長い冬を乗りきるイギリス人のちょっとしたアイデアということは、滞在2年目にして早くも見破ってしまった。
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しかし庭好きであれば、救いはどこかにあるのだろう。
この時期、急に植物たちが、鮮やかなインパクトを訪れる人に与え始める庭がある。
ケンブリッジ・ボタニカルガーデンにある「ウィンターガーデン」。
ここは、ケンブリッジの大学の附属に当たるような所で、古くから植物の研究が行われ、現在にいたっても常に新しい植物の紹介やデモンストレーションが行われている。
レトロで趣のある木製の骨組(フレーム)が素敵な温室も、散歩の途中に暖をとるのに格好な場所なのだが、何といっても「冬こそ主役」といった、今が冬とは信じられないほど鮮やかな植物をコレクションし、デザインしているのが特徴。バリエーションも非常に豊かだ。
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■列植されている植物のバリエーションが豊かな「ウィンターガーデン」■
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■サンゴのように赤い「ドッグウッド」■
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中でもその代表格は「ドッグウッド」だろう(写真左)。
晩夏までは、なんの変哲もない潅木に見えるドッグウッドだが、秋に葉が色付くころになると、葉はもちろん、地面からスッと伸びたすべての枝が真紅に染まる。これが、根占の常緑の低木とかなりの株幅で列植されていて圧巻。和名の「サンゴミズキ」とはよく言ったもので、葉が落ちた後、表面のテクスチャーや枝ぶりはまさにサンゴそのものだ。
ほかにも、枝の黄色い「キハダミズキ」や少し緑がかったものも列植されていて、コントラストがとても美しい。
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そのほか出色なのは、「ヘリテージ」という種類のシラカバ(写真右)。
幹肌が薄いピンクで、艶やかなベールでも巻いているように見える。思わず幹肌に触れ、もう一度楽しい驚きを堪能する。きっと誰もがそうしてしまうに違いない。それほど美しいのである。
これらの植物が織り成すカラーバリエーション〜 冬空に映えるピンクや赤、緑、黄…を遠くから眺めていると、次第に興奮して心も温かくなってくる。 |
■「ヘリテージ」は艶やかな幹肌が特徴■
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しかし、これらの植物がこれほど生き生きして見えるのは、一年中、決して色あせることなく地面を覆っている、芝生のカーペットがあるからこそだと思う。
イギリスの美しい芝生は他の追従を許さない。どんなに珍しい植物を日本で交配しても、この芝生だけは真似はできないだろう。
息が凍るほど寒い日の公園でも、みずみずしいグリーンがイギリス人の心を慰めている。
ロンドンの冬を思い出す時、低く垂れ込めた空よりも、この鮮やかな緑のカーペットがより鮮明に情景の一角にあるのは、私も同じ気持ちだったという何よりの証拠だと思う。 |
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